示談に応じてもらえない場合、弁護士はどのように交渉を続けていくか
起訴猶予による不起訴処分を得る上で、被害者側との示談成立は大きな影響を持ちます。
しかし、被害者側の怒りや恐怖によって処罰感情が強いと示談交渉に応じてもらえなかったり、賠償金の受け取りを拒否されてしまうケースもあります。
刑事事件の経験豊富な弁護士はそのような事態にどのように対応して、交渉の継続を図って示談の成立を目指していくのか。
私が携わった事例の中で印象に残っているケースを例にしてご紹介します。
弁護士との接触自体に拒否反応を示されることも
被害に遭われた方の中には、そもそも加害者側の弁護士と話をしたくないと思われている方もみえます。
また、賠償金の金額などの条件がどうしても折り合わず、これ以上の交渉を拒否されてしまうこともあります。
しかし、不起訴処分を得るためには、検察官が処分を決める前に示談を成立させておかなければなりません。
示談交渉は時間との勝負になる面もあります。
たとえば、最初は弁護士と話すこと自体に拒否反応を示されたとしても、まずはお話を聞かせていただきたいという姿勢でアプローチして、少しずつ気持ちをほぐしていただきながら示談交渉につなげていくコミュニケーション能力が弁護士には求められます。
簡単に諦めずに交渉を続ける努力を積み重ねる
示談を拒否されていた方の中には、被害者側の方の思い込みが原因になっていたケースもありました。
警察から詳細な説明がなかったからか、示談に応じるとその時点で捜査がすべて終了してしまうと思われていたようでした。
それで、示談の話し合いに応じる意思はないと。
少し時間を置いてから、検察官を通じて、示談が成立しても捜査は最後まで続けるし、処分が決定するわけではないことを伝えてもらいました。
そうすると、それなら話を聞くだけなら構わないということになり、なんとか示談交渉を進めることができました。
また、加害者側が用意することが難しい金額を主張されて、ご提示した賠償金額が折り合わず、いったん交渉が止まってしまったこともありました。
被害者側と連絡を取れない状況に陥ってしまいましたが、警察から検察へ事件が送致された時点で、検察官にお願いして、金額面で提示できる条件を再考する意思があるなど加害者側の誠意を伝えてもらい、なんとか交渉を再開することができました。
最初から拒否されたり、内容が折り合わずに示談交渉が暗礁に乗り上げてしまっても、簡単にはあきらめずに交渉を続ける努力を重ねていくことが大切だと思います。
まずは加害者側の弁護士と話をしてもらえる関係を築けるように
検察官が処分を決定する期限ギリギリまで粘って、なんとか示談を成立させることができたケースは今でも強く印象に残っています。
そのケースでは、被害者の方は最初にご連絡を差し上げた時点から開口一番、示談には応じませんという姿勢で、到底、示談のための話し合いができるような雰囲気ではありませんでした。
このままでは会話が続かなくなると考えて、弁護士としては加害者側の言い分しか聞けていないので、客観的に事情を把握できるように被害者の方のお話を聞かせていただきたいとお願いしました。
そういうことであればと承知していただいて、被害に遭われた当日、ご家族で現場に遊びに来られていたことなど色々とお話ししていただき、その日はまたあらためてお話を聞かせていただける機会をくださいとお願いして電話を切りました。
示談の話はその時点では出していません。
被害者の方のお話を加害者の方に伝えたうえで、少し時間を置いてから再びご連絡して、現状の報告をした上で、心苦しいけれど弁護士の立場としてなんとか示談に応じてもらえないかとお願いしましたが、やはり断られてしまいました。
それからまた時間を置いて、あと数日で処分が決まってしまうという時点で、最後のお願いですと連絡を取って、最後に一度お会いできないかとお伺いしたところ、なんとかお会いする約束をいただけました。
示談には応じてもらえないものの、弁護士を拒絶するのではなく対応はしてもらえる関係を築けていたのだと思います。
粘りに粘って示談交渉を成立させることに
ようやくお会いできたものの、示談には応じられないというお気持ちに変わりはありませんでした。
それでも粘りに粘って、4時間くらい喫茶店で話していたと思います。
何か示談に応じられる条件を教えてもらえないかとお願いしたところ、相手の方としてはこちらに示談を諦めてもらおうという思いから、到底呑めないであろうと思われる条件を提示されました。
しかし、さっそくその条件を依頼者の方に伝えて相談したところ、どうしても示談を成立させて不起訴に持っていかなければならないという状況でしたので、条件に応じるというお返事をいただきました。
被害者の方は条件を呑んだことに驚かれていましたが、私の熱意が通じたのか、最後は納得した上で示談に応じていただきました。
いつまで経っても諦めてくれない弁護士からいい加減解放されたいという思いもあったかもしれません。
長年の刑事事件弁護の経験があったからこそ
振り返ってみると、最初に被害者の方と電話でお話ししたときに、このまま示談の話を進めるのは難しいと感じ取って、話題を変えて会話をつなぎながら被害者の方の気持ちをほぐすように努めたのが良かったのだと思います。
弁護士としてのキャリアがまだ浅い時期だったら、被害者の方の心情に配慮して会話を続けることはできなかったかもしれません。
弁護士は当然、依頼者の方の味方ではありますが、一方で被害に遭われた方の心のキズを忘れることなく示談交渉に臨むことが大切だと思っています。